彼はとても優しい表情になって、私の頭を軽くポンポンとした。

わっ、ダメだって!!

このタイミングで急にそんなことされたら、ドキドキしちゃうって言うか、切なくなっちゃうって言うか、何かホッとして目が潤んで来ちゃうって言うか.......


「えらいな、お前。そんなイヤなことがあったのに、ちゃんと乗り越えて。」

「.......そう?」

「いっつもニコニコしてるから、そんな辛い過去があるとは思わなかった。」

「.......。」


あれ? 何か変だ。

泣きたい訳じゃないのに、涙が出てきそう。

てか、こんなこと、言わない方が良かったかな?

もしかして、引かれちゃってない.......?


酔いの回った頭にそんな考えがよぎった瞬間、何を思ったか、彼は横からハグをして来た。

うす暗いし、隅っこの方だったし、カウンター席には私たち以外にカップルがもう一組くらいいしか座ってなかったし、多分、いや、きっと誰も見てなかったとは思うけど、だからってさぁ.......


いきなりそういうのは反則だと思う。

そんなことされたら、心臓のバクバクが止まらなくなる。

なのに、人の気も知らないで、そんな風に自分のペースで優しくするのはズルい。


「さ、じゃあ、もっと飲め。そんなしょうもない男、忘れちまえ~!!」

「へ? あ、うん。」


って、だいぶ酔っぱらってる?

心なしか、彼の目もトロンとし始めている。


でも、カワイイ。

一緒にいて、すごく楽しい。

飲むと、ますますチャラいのが否めなくなってくるけど、やっぱり私は彼が好きなんだと思う。