今しかない、この瞬間を

状況を掴めないまま、恐る恐る振り返ってみたけど、パっと見た感じ、声の主は私の知り合いではない。

この人、もしかして、私を誰かと間違えてるんじゃない.......?


「今の時間帯ってさ、混んでるから変な奴とかいるし、一人で隅っこに乗ってると、何か危ないじゃん?」

「.......え?」

「せっかく同じ車両に乗ってるのに、すぐ見つけられなくてゴメンね。怖い思い、させちゃったよね。」

「.......あ。」


あっ!! わかった〜!!

そうか、そういうことなのね!?


敢えて、この場でそんな言い回しをするのは、痴漢野郎を威嚇するためなんだよね?

私を助けようとして、わざとそうしてるんだよね?

何となくそう思えるのは、きっと気のせいじゃないんだよね.......?


てか、この際、もう何だっていい。

勘違いだろうがなんだろうが、実際、助けになってるんだもん。

今、この人にすがれば、私はきっと痴漢野郎から逃れられる!!


「ねぇ、ねぇ、こっち来て。」

「え? あ、うん。」


勇気を出して、彼に声をかけてみた。

すると、痴漢行為に気付いていたのか、私の隣にいたおばさんは、すぐに察して場所を空けてくれた。

恋人だか親友だかを演じようとしてくれている彼も、私の言葉に従い、おばさんの前に出て来てくれた。


はぁぁぁ、助かったぁ.......

さすがにもう痴漢野郎も手を出して来ないはず。

彼が同じ車両に乗っていて、本当に良かった。


知らない人を、こんなに頼もしく思えるのは初めてだ。

きっと彼は、人一倍、正義感の強い人なんだろうな。

後で、ちゃんと感謝の言葉を伝えよう。