やだ、やだ、どうしよう。

もしかして、これ.......

緊張して、すっかり固まっていると、今度はスカートの上から太ももを撫でられているような感覚がする。


ちょっと、嘘でしょ?

これって、もう「痴漢」確定?

初出勤の日からこんな目に合うなんて、いくら何でも運が悪過ぎる。


やだよ、怖いよ、止めてよ.......

身体が強張り、思うように動けない。

見えない恐怖に包まれ、声を出すこともできない。

それをいいことに、太ももを執拗に撫でる手のひらは、もはやスカートの内側に滑り込もうとしている。


誰か気付いてくれないかな。

どうすれば、逃げられるのかな。


..........お願いだから、誰か、助けて!!


「あっ、お前、こんなとこにいたの? 探しちゃったじゃん。」


心の叫びが通じたのか、絶妙なタイミングで、ちょっぴり鼻にかかった声が聞こえた。

だからと言って、こいつの悪業には何の影響もないだろうに、その声に警戒したのか、痴漢野郎の手がピタっと止まる。


だけど、ホっとしたのも束の間、次の瞬間、私の身に信じられないことが起こった。

今度はどこからか現れた別の男の人の手のひらが、ドアに張り付いて縮こまっている私の手首を、いきなり掴んだのだ。


えっ、嘘? 誰!?

なんで? どうして?


「何番目のドアか聞くの忘れちゃったからさ、お前のこと、ずっと探してたんだけど、こんだけ混んでると、わかんねぇな。」

「..........。」


私の手首を掴む日焼けした腕に見覚えはないし、もちろん、声だって知らない。

でも、どうやら私の手首を握っているのは、声の主に間違いないようだ。