でも、ニヤニヤ笑いを浮かべる加納さんは置いておいて、館内で噂になってるなら、遠慮をする必要もないか。

ご近所さんとして彼が親しみを持ってくれているのも嬉しいし、ここは思い切って、その噂に甘えてしまおう。

例え、叶わない恋だとしても、そうして過ごすうちに、もしかしたら、何か、自分にとって良いポジションを見つけられるかもしれない。


「バスのお迎え、行ってきます。」

「はい、お願いします。」


ウキウキしながら時計を見て、フロントのメンバー全員に聞こえるよう、声をかけた。

一旦、割り切ってしまえば、加納さんの意味ありげな笑顔も怖くない。

今の私にとって、一番楽しみな時間であることは認めるけど、これもれっきとした仕事なんだから。


今日はキッズテニスはお休みの日。

迎えに行かなくちゃいけないのは、サッカースクールの子たちだけだ。

着替えが大変なスイミングと違い、家からユニフォームを着て来ちゃう子が多いサッカーは、バス停まで見送った後、スクールまで付いて来ない親が多い。

その分、ちゃんと面倒を見てあげないと、忘れ物はするわ、バスは遅れるわ。

可愛いから何でも許せちゃうけど、幼児クラスは意外と手がかかる。


そうなると、自ずといつも自分で送り迎えをして、最後まで見学している母親は限られて来る。

実際、限られたママ同士だからか、見た感じ、みんな仲が良さそうだし。


見ていて、そういうのにも、ちょっと憧れる。

可愛いわが子のために、毎週、スクールに通うなんて、何だか優雅じゃない?

私にもいつか、そんな幸せな日が訪れるといいんだけどな.......