昨日と同じ、ヤンチャな感じのする笑顔で微笑むと、彼はサッカーコートのある別棟へと消えて行った。

加納さんとキャピキャピちゃんの刺さるような視線を感じる。

目を合わせなくても、聞きたくてウズウズした様子で、私を見つめているのがわかる。


「ねぇ、昨日、どっかで会ったの?」

「あぁ、はい。実は.......。」

「何? 何? 超~聞きたいんですけど。」

「昨日、ここに来る前に、痴漢に遭ってるところ、助けてもらったんです。」

「うそ~!! ほんとぉ? 」

「チャラ男くん、なかなかやるじゃん。」


二人とも、予想通りの反応だ。

「おもしろいこと聞いちゃった」と言わんばかりに、目を輝かせている。


「ただ、その時は、名前も、何してる人かも知らなくて、何の先入観もなく、もう少し落ち着いた人だと思ってたから、ちょっとびっくりしちゃって。」

「あはははは.....。なるほどね。」

「でも、じゃ、お互い、まったく知らなかったのに、助けてもらったの?」

「いえ、挨拶に来た時に、田澤さんが、家が近いって上山コーチに教えてたみたいで、私の顔だけは憶えてたって言ってました。」

「へぇ~、すごい偶然。」

「ちなみに、その時、まだ髪の色、黒かったっしょ?」

「はい。」

「じゃ、染めに行く途中だ。」

「美容院ですか?」

「そう。合コンで会った美容師に、指名入んなくて困ってるから、来てくれって頼まれたんだって。」

「.......。」

「来年のパンフ撮影用に黒くしろって、田澤さんに言われてなかったら、前の髪型にはなってなかっただろうから、まぁ、元通りっちゃ元通りなんだけど。」

「そう、なんだ.......。」