バッグを胸の前に抱え、意を決して、電車に乗り込む。

いや、乗り込むというより、流れに身を任せて、「雪崩れ込む」みたいな?

自分の意志とは関係なく、車両の真ん中の方へ向かって、どんどん身体が押し込まれて行く。


あっという間に、すごい人数の乗客が車両の中に吸い込まれ、その圧力で、気付けば、知らないおじさんと向かい合って密着したまま、身動きが取れなくなっている。

申し訳なさそうに視線を逸らすおじさんの吐息がかかって微妙に気持ち悪いけど、それは誰のせいでもない。

社会人たるもの、このくらいのことでヘコたれている場合じゃないのだ。


発車後、車両が動き出すと、不思議なことに、揺れで人と人の間にわずかな隙間が出来て来る。

手首くらいなら動かせるようになって、少しは楽になるけど、時間が経つにつれ、空気もだんだん薄くなって来るから、汗ばむ身体にモワっとした湿気がツラい。


それでも何とか一区間を耐えると、乗り換える乗客がドバっと降りた。

やっと自由に動けると思うと、ホっとする。

と同時に、軽く深呼吸しながら、必死で空いたスペースを見渡し、次に陣取るべきポジションを探す。


やった!! あそこの隅っこ、空いてる。

ちょうどいい感じに、ガラ空きになったスペースを発見。

早速、目を付けたドアのそばに移動して、混雑時には命綱にもなる手すりを握りしめた。


端っこにいれば、もう安心。

窓ガラスの方を向いていれば、誰かとお見合い状態になることもないはずだ。