今しかない、この瞬間を

だけど、言いたいことは大体言えたし、彼も何となくわかってくれてそうな雰囲気だった。

だから、今日のところはこれでいいよね。

焦って失敗するよりも。


でも、お願いだから、早く気付いて。

私の正直な気持ちに.......


「あのさぁ、明後日、遅番だろ?」

「うん。」

「初めて一緒に行った店、行かない?」

「うん、行きたい。」

「じゃあ、決定。久しぶりに二人で飲みに行こう。」

「うん。」

「あとさ、お前、約束忘れてるだろ?」

「え? 何?」

「『上山コーチ』は止めろっつったじゃん。」

「あぁ.......。」

「忘れんなよ。もし、ちゃんと約束守れたら、いいことあるかもしれないから。」

「へ?」


それって、何?

何か企んでるんでしょ?


ドキドキしながら、彼の顔を見たら、見慣れた子供みたいな笑顔が浮かんでいた。

その笑顔に、心の奥からホッとした。


彼の心の内はわからないけど、私の気持ちに気付いたなら、この先、何か発展があるはずだ。

だから、信じて、彼のそばにいよう。

まだしばらくは、この関係のままでもいいから。

結局、私には、それしかできないんだから。


階段を下りて行くと、何となく不安そうな面持ちで、田澤さんが立っていた。

私がここにいるって、加納さんに聞いたのかな?


「お疲れ様です。」

「お疲れ。ねぇ、あかねちゃん、明日、休みでしょ?」

「はい。」

「迎えに行くから、ドライブ行かない?」

「え? あぁ、じゃあ。」

「ゆっくり話そう。この前の返事も聞きたいし。明日は一日、俺に付き合って。」

「.......はい。」


笑顔で去って行く田澤さんに、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

だけど、明日、きちんと返事をしよう。

これはきっと、私にとって、大切なタイミングだと思うから。

今しかない、チャンスなのかもしれないから。