今しかない、この瞬間を

朱美さんと会ったのは、その日が最後だった。

あまりに突然だったから、どこか現実味を帯びていなくて、また普通に来週も会えるような気がして、別れをきちんと受け入れられていないからなのか、次の日以降も不思議と取り乱すような寂しさは感じなかった。


だけど、あんなに頼っていたいたはずの心の拠り所がなくなったのに、こんな風に平常心を保って入られるのは何故なんだろう。

自分でも信じられないし、朱美さんに申し訳ない気持ちすら感じる。


これって、もしかしたら、俺は自分で思っているほど、朱美さんに頼らずに過ごしていたっていうことになるのかな.......

考えてもわからないけど、そう思わざるを得ない。


だとしたら、知らないうちにそれに代わる他の何かに支えられてたとか、俺が強くなったとか?

後者はなさそうな気がするけど、とりあえず俺の中に、前とは違う何かが芽生え始めているのは確実だろう。


そういう意味でも、朱美さんのくれた別れの言葉は、「まさか」な感じだった。

もちろん、悲しい、切ない、辛いばかりじゃなく、お互い、前向きに生きて行こうっていうメッセージも十分伝わったけど、そっちの方じゃなく、「幸せ」を逃すなっていう方が。


確かに俺は、あれからも平穏に、何事なく毎日を送っている。

さすがに二、三日くらいはテンションが低めだったけど、それをあいつに悟られたくなくて笑ってたら、いつの間にか平気になっていた。

落ち込むことも、悩むこともなく、立ち直っていた。


それは、やっぱり朱美さんの言っていたことと関係しているのかな?

俺はあいつにそこまで頼っているのか?

意識し出して初めて、急に心の中で大きくなり始めた存在に、戸惑いを隠すことができない。