今しかない、この瞬間を

「お前、明日、中番?」

「うん、そう。」

「明後日、遅番だっけ?」

「うん。」

「じゃあ、明後日の帰り、駅前のラーメン屋行こうよ。『冷やし中華、始めました』って書いてあったから。」

「ホント? いいね、冷やし中華。」

「だろ。明後日、食いに行こう。もちろん、ビール付きで。」

「うん。」

「じゃ、お休み。今日は楽しかったな、あかね。」

「うん、お休み.......。」


彼は私の頭にポンっと軽く手のひらを乗せると、笑顔で階段を上って行った。

手を振りながら、その笑顔に応える私はなかなか動けない。


だって、思いも寄らぬタイミングで呼ばれちゃったから。

「ちゃん」の付いていない名前で。


結局、私は彼の名前を言えなくて、ずっとドキドキしていたら、「お前」が突然、「あかね」になった。

それは私が言い易くするための思いやりだろうし、今日一日、いろんなことを話していて、また彼との距離が縮まった証拠でもある。


考えなくちゃいけないことは増えたけど、これからどうするべきか、方向性も決まった。

早く構えなくても名前を呼べるようになって、もっと彼に近付きたい。

明日、会ったら、頑張って「光汰」って呼んでみよう.......


次の日は朝からウキウキしていた。

上手にサラっと名前を言えたら、彼はどんな顔をするだろう。

いつもの混雑した地下鉄さえも、それを考えているだけで憂鬱な場所じゃなくなるから不思議だ。


たったそれだけのことだけど、彼と今よりも親密になるための重要な第一歩。

みんながいる場所だと恥ずかしいから、最初はやっぱりバスのお迎えの時かな。

だったら、見学のお母さんが少ないといいな。