えっ、ちょっと待って!?

その後に続く言葉は何なの!?


もしかして、いきなり大事なことを言われちゃうとか?

どうしよう、心の準備が全然できてないってば!!


いや、でも、そんなはずないよね。

まだ朱美さんとサヨナラしたようでもなさそうだし.......


「その『上山コーチ』っていう呼び方。」

「へっ? あぁ、うん。そうだね.......。」


何だ。そんなことか。

期待し過ぎて、一気に気が抜けちゃった。


そうよ、そうよね。当たり前か。

彼にはまだ朱美さんがいるんだから、急にそんな展開になる訳ないじゃん。


「俺らってさ、普段、一緒にいる時間が一番長いと思うんだ。お互いに。」

「あぁ、そうかも。」

「でさ、その中でも仕事してる時間って、多分、こうやって遊んだりしてる時間より短いじゃん? 」

「確かに。」

「なのに、コーチって呼び方はどうなのかなって、実は結構前から思ってた。」

「えっ? そうなの?」

「うん。」

「ふ~ん。」


そんなの、まったく気付かなかった.......

だって、出会ってからずっとそうだったから気にしてなかったし、呼び方が変わるとしたら、それは私が彼にとって特別な存在になれた時だと思ってた。

だから、彼の口からそんな言葉が出てくるのは意外だったし、嬉しかった。

特に、彼がそうしてほしいと思う理由が。


「俺さ、家族とか寮の仲間以外の誰かと、こんなに一緒にいたことないかも。」

「え? そう?」

「つうか、家族だって小さい頃だけだし、女の子では初めてじゃないかな。」

「ほんとに?」

「何かお前といると、楽なんだよね。どうしてなのかはわかんないけど。お前がここに越して来てくれて、良かった。」

「.......そう? ありがとう。」