エレベーターに乗り6階のボタンを押し
部屋に着くとドアは全開に開いていた。



「お母さんただいまー!!」



「あら〜早かったのねおかえり」



キャリーバッグいっぱいに荷物を詰めたお母さんが振り返って笑う。



「結構持っていくんだね。今度は長くなるの?」


「うん、そうなるわ。向こうで行うコンクールに出てみないかって言われちゃってね…」



お母さんは嬉しそうな…だけど切なそうな表情で荷づくりを続けた。



お母さんはプロのピアニストで外国では結構大々的に取り上げられているらしい。


あたしにはない才能にすごく羨ましい。

だからあたしにとって自慢のお母さん。


でも外国での仕事がほとんどで日本に帰ってきてもまたすぐに出発してしまうのだ。


あたしにはお父さんがいない。
だから女手一つ育ててもらったお母さんについていきたい。

だけどお母さんはついて来いなんて一言も言わなかった。
結芽の人生は結芽自身が決めることでしょ?って


だからあたしは…ここに残る。


寂しいけど…寂しいなんて言ってられない。