冬休みに入った初日、家族に内緒で電車に乗り込みました。
家出した時と同じ電車に揺られて、終着駅まで着きました。

電車を降りると、小雪がチラチラ…と舞い落ちてました。

その年の冬、初めて見る雪でした。
手でつかみながら、山方面に向かって歩きだします。

大きな鳥居は相変わらずの威張った態度で、私を迎えてくれました。

頭を下げて一礼しました。
何かのテレビ番組で、鳥居をくぐる時には神様の領域に入らせていただきます…の意味で、頭を下げなければならない…と言ってたからです。

上に続く階段を上り始めました。
家出した時と同じように、頭の中ではいつも神社で見かける手洗い場やお社が浮かんでました。
どんな神社が出来上がってるのか、ワクワクしながら足を速めました。

最後の一段を上りきって、顔を上げました。

眩しい白い壁が目の中に飛び込んできました。
丸い柱は朱色で塗られ、お社の屋根には金色の魚がくっ付いてる。
まるで、「浦島太郎」に出てくる「りゅうぐうじょう」のような建物に、しばらく呆然となりました。

ゆっくりと近づいて、さい銭箱の上の文字を眺めました。
漢字は読めなかったけど、こう書いてあった。


『縁の宮神社』


(何て読むんだろう…)

漢字が読めないことが、こんなに残念なことだとは思いませんでした。
家に帰ってから調べようと思い、ノートを取り出します。

ノートには、読めない漢字がいくつも書いてあります。
私なりの辞書みたいなものです。