末っ子のひがみに似た気持ちはなんとなく分かりました。
キツネさんは、優秀なお兄さん、お姉さんと比べられて…嫌という程「くつじょく」を味わってきてるんだな…と考えました。

「わざと何も食わずに生活してみたり……高いビルの屋上に上がってみたり……線路の上を延々と歩いてみたこともあれば……おふくろの真似をして…首にヒモを巻いたことだってあった………死ぬ覚悟だけは一丁前だった………でも……死ぬことは難しかった……床に降ろされたおふくろの顔が頭から離れねぇで………イヤでも生きろ……と言われてるみてぇで…………」


………一番大事なものを贈られたんだな…と感じました。
キツネさんのお母さんは、自分の命を使って、キツネさん自身を助けてきたんだ…と思いました。


「生き直すつもりで寺に参った……おふくろの墓がある寺で………棟梁と出会った………」

欄干の一部を修繕中だったタコさんとの出会いが、人生を変えた…とキツネさんは言いました。

「誰も見てねぇのに、一心不乱に仕事する棟梁の姿に…えらく感動した………」

黙々とカンナをかけ続けてるタコさんのことを「男の中の男」だと思ったそうです。

「オレが勉強を頑張ったところで…アニキのように優秀になれるわけじゃねえ。アネキのように…特別なワザも持ってねぇし、あるのは死ねねぇクソみたいな根性だけで……生きてる価値も何もねぇ………でもな………」

キツネさんの泣いてる目が私の方を見ました。
何かを教えようとするその視線に、ピリリ…と緊張が走りました。