「失礼。今日は会議は中止だって」
ミーティングルームの入り口の扉を数回ノックして、注目を集めた男の人はそう言った。
ブランド品だろうストライプの紺のスーツを着崩して、首筋の爪痕を堂々と見せている男の人……。
(あ、この人さっきの!)
近くで見たのは初めてかもしれない。
切れ長の瞳は冷たそうで、無表情に淡々としたその顔にスッとし鼻梁、後ろへ適当に流した首に掛る黒髪。
おおお。彫刻で作ったみたいな王子様だ!
狼君の回りの女の人たちも、おしゃべりを止めて王子様の方を見ている。
でも、この人さっきまでエレベータ内でイチャイチャしてたんですよー。
「会議が中止ってなんでですか? 午後一に変更?」
「いや。今日は無しだ。どうやら、コンペの結果で取引先とまだ話が長引いているらしい」



