「え、あ、うん」
ふわりと、狼君の髪からいつも使っているシャンプーの香りが鼻を掠める。
月夜の光だけでは、慣れない眼鏡越しの狼君の表情が良く見えない。
私の家と狼君の家は10分も離れていない。すぐそこにはもう私のマンションも建物の間から顔を出している。
なのに、今日はなんだが遠く感じる。足取りも重い。
「もしかして、狼君今日ちょっと、変?」
笑顔で駆けて来てくれたから分からなかったけど。
無理に尻尾を振ってくれてたんだ。
強く引っ張られた腕が、その痛みで教えてくれた。
狼君の小さな叫びを。
「貴方がそんな可愛い服を着ているのが悔しい」
貴方――。
先輩じゃなく、貴方と狼君が私を呼ぶなんて。
「アイツのせいで先輩が変わって行くのは我慢できない。俺は貴方と貴方の世界を壊したくなくてこうして踏ん張っているのに」
掴んだ手とは反対の手が、私の髪の輪郭をなぞると、髪を掬い少しだけ屈んでその髪へ口づけを落とす。
まるで、お姫様の呪いを解くような、王子様みたいな甘い雰囲気で。
「狼君」



