そんなタケルを横目に俺は立ち上がり、足を進めた。


「翔さん、何処行くんすか?」

「早く帰りてぇから終わらせて来る」

「へーい」


背後からタケルの声を聞きながら、とりあえずタケルの番号を一度消し、美咲の番号を登録する。

タケルの番号は、帰ってからもう一度入れ直す事にして。


…にしても、こんな所に書きやがって。

もう一度腕を擦ってため息を吐き捨てる。


それから俺は誰とも話すことなく4時までやり、一足先に帰宅する。

エントランスに入り、そこにあるポストを開けると銀色に光った鍵に目に入った。


「…だよな」


美咲が言った通り本当に入ってる鍵に苦笑いが漏れる。


持って帰るわけねぇよな。

他の女とは違うんだし。と思いながら玄関のドアを開け、そこにある一万円札にまた苦笑いする。


俺が置いて行った金がそのままある。

その金をリビングのテーブルに置くと同時に、右手に書かれたタケルの番号にまたため息が漏れた。

とりあえずその番号を紙に書き、俺は風呂場に向かう。


案の定、風呂からあがってもタケルに書かれた文字は消えない。

まだ薄く残っている番号に、軽く舌打ちした。


「あいつ…」


思わず漏れた言葉に眉を寄せる。


そして不意に向けた時計に、俺は慌ただしく動いた。

のんびりしてる暇はない。

いつもなら少し仮眠をするものの、そんな時間すらない。


髪を整え、黒のスーツを着こなし、香水を吹きかけ休む時間もなく、俺はマンションを後にした。