「あっ、私だけど…、」


戸惑い気味に出された声に一瞬、躊躇う。

女は必ず、私だけどって言う。

それじゃ分かんねぇよ。


「え、誰?」

「あ、私――…」


その声でハッとした。


「あー、みぃちゃん?」


そう分かった時、遮った俺の声はつい明るくなった。


「うん」

「おはよ」

「うん、おはよう」

「ってか、もしかして今起きたとか?」

「あ、うん。…ごめんね。私いつの間にか寝てたみたいで…」


よほど記憶がなかったのだろう。

昨日の夕方からの出来事を思い出すと、相当に疲れてたんだろうと。


「あー、気にしなくていいから。つーかさ、学校行った頃には終わるんじゃね?」


そう言った俺は思わず、笑い声が漏れる。


「うん、そうだね」

「そうだねってサボんのかよ」

「うーん…」

「俺が起こせば良かったんだけど、みぃちゃんあまりにもよく寝てたから起こすの悪りぃと思って。あ、それよりテーブルの上にビニール袋あんだろ?」

「うん」

「そん中にパン入ってっから食えよ」

「え、何?もしかして、わざわざ買ってきたの?」

「あぁ」


受話口から密かにガサガサとするビニール袋の音。

何がいいのか分かんなかったから、適当に買ったものを出しているんだろうか。


「別にいいのに…」


やっぱ言うと思った。

相変わらず拒否んの好きだな。


「あ。別にみぃちゃんの為にわざわざ行ったとかじゃねぇから。俺のついでな」

「ついでね。…ありがとう」

「ちゃんと食えよ」

「あっ――…」


急に美咲の弾けた声にビックリした所為で、ちゃんと聞き取りにくい挙句、周りの雑音で邪魔する。