「何もしねぇよ。飯食うだけ。みぃちゃん、どーせ毎日ちゃんと食ってねぇんだろ?…行くぞ」


俺は立ち上がって了解なしに美咲の腕を引き足を進める。

その美咲の手がやけに冷たかった。

何でこんなにも冷たいんだろうと思うほど、体温すらない。


俺の体温を全て奪っていきそうな、その手を更に強く握った。


車に乗って帰る途中、美咲は眠りにつく事もなければ口を開くことも一切なかった。

ただ、窓側に視線を向けて、手には封筒がギュッと握りしめてある。


そんな美咲に掛ける言葉なんて何もなかった。

正直、色んな事を聞きたいと思うけど、その美咲の頑なに閉じた口はそう簡単に開くことはないだろう。


それを簡単に聞くほど、俺と美咲は浅い関係にしかすぎない。


「着いた」


駐車場に着き、車から降りて助手席に回る。

ドアを開けると、それに連れられるように美咲は車から降りた。


歩く俺の後を追う様に着いてくる美咲に、ホッとする。

何も口を開くことはないけど、その着いてきた美咲に安堵した。


部屋に入って、テーブルにキーケースを置く。

少し疲れた肩を解しながら首元に緩く巻かれたネクタイを外しながらふと思った。


あー…そう言えばここに女を連れて来るのは初めてだと。

俺にとって唯一ここが気を休める所であって、その領域に入ってほしくないが為に誰にも言わないし、誰も連れてこないようにしていた。

なのにその空間に連れて来た美咲は特別なんだろうか…と。

いや、違うか。


そしてふと美咲に視線を送ると、入ってきてから一度も動いてない美咲に苦笑いする。

ボーっと意識がないように突っ立っている美咲に、更に頬が緩んだ。