「とくに夜の海が好き。なんつーか、誰も人居ないし波の音聞いてっと落ち着くから…」

「……」


あの時もそうだった。

母親が死んだ時、俺はよく一人でここまで来てずっと波の音を聞いていた。

当時は車なんて乗れる年齢じゃねぇから、電車で来て、終電逃して朝まで居てたっけ。


気づけばこの階段で眠ってたり、道端で寝たりしていた。

今、思うと凄げぇなって思うけど、当時の俺はここが唯一の居場所だった。

俺の闇にかかった心を沈めさせてくれてた。

だから美咲も…


「俺、男だから何つっていいのか分かんねぇけど、みぃちゃんの友達が言ってた事は間違ってねぇと思う」

「……」

「だけど、みぃちゃんの言った事も間違ってねぇと思う」

「……」

「まぁ、結局何が言いてぇのって感じだけど…。それに俺、みぃちゃんに嘘はついてねぇよ?」


自分でも一体何が言いたかったのかも分かんなかった。

だけど二人が言った事に納得できる部分もある。


話が話なだけに、何て言ったらいいのか上手く伝えられなかった。

そんな俺に視線を向けた美咲に俺は口角を上げた。


「俺は確かにホストだけどトビって言ったのも本当。嘘じゃねぇよ」

「え?」


微かに聞こえた美咲の小さな声。

波の音でかき消されるような本当に小さな声が俺の耳に届く。


その美咲の表情は、どういう事か理解出来ないって感じの顔で、そんな美咲から視線を避け、広がる海をジッと見つめた。