何を思い、何を考えているのか分からない美咲は、ただ目の前に広がる海を呆然と見つめていた。

そんな美咲から視線を外し、俺は足を進めていく。


階段に踏み切った時、微かに聞こえた美咲の歩くヒールの音。

最後の段で俺は止まると、背後に居る美咲に視線を送った。


「みぃちゃん…」


まだ階段の上のほうに居る美咲に手招きし、美咲を呼び寄せる。

それに答えるかのように、美咲は躊躇うことなく階段を下り、俺の隣に立った。


「もっと先でもいいけど、みぃちゃんヒールだからここまで。…カカト埋もれちゃうっしょ?」


言いながら階段に落ちている多少の砂を靴で払いながら俺はその場に座り、未だに呆然としている美咲を見上げる。


「大丈夫?寒くない?」


海の風は何故かひんやりとした。

頬を緩める俺に美咲は首を振り、膝を抱えるようにして俺の隣に腰を下ろす。


ただ、ボンヤリと海を見つめる美咲は会った時とは比べ物にならないくらい、物静かだった。


そして救いの様に波の音が俺たちの沈黙を助けてくれる。

あの時と同じように、波の音が心地よかった。


「俺…、すげぇ海好きなんだよな」

「……」


沈黙を破ったのは少したってからだった。

だけど美咲は俺の言葉に口を開くことなく、ただ海をずっと見つめてた。