叩かれたのは友達で、叩いたのは美咲。

険悪した空気の中、俺は静かに視線を逸らし、再びタバコを咥えた。


「何言ってんの?今、葵は妊娠してんだよ?」

「分かってるそんな事。お金が必要なんだよ」

「だからと言って、なんでそうなるの?」

「お金が必要だから…って美咲がずっと言ってる事だよ――…」


その言葉がやけに引っかかって、その先の会話なんて耳に入ってこなかった。

お金が必要って、お前は何でそんなにお金が必要なのかを俺は知りたかった。


俺にはもう両親すらいねぇから、金が必要だったけど。でもお前には居るだろ?

なのに何でそんなに金に逢着してんだよ。


「あっ…、」


密かに聞こえた美咲の声に俺は顔を上げる。

俺の存在すら忘れてたんだろうか。

ゆっくり俯く美咲に、


「みぃちゃん…」


声を掛けると、再び美咲の視線が俺に向く。

どうしよう。と言う美咲の不安そうな表情。

その重い空気を遮る様に俺は口を開いた。


「みぃちゃん、今から時間ある?」


俺と居る事に気まずさを感じているのだろうか。

口を開く事のない美咲は、ゆっくりと頷いた。


「じゃあ、早く乗って」


俺が乗り込んだ後に美咲も乗り込み、その姿に安堵のため息が漏れた。