「だから?」
「だからって…、ちゃんと行きなよ。アンタ飛んじゃうよ?私の所為で飛ばされたなんて言われたら馬鹿馬鹿しいし」
ついため息が出た。
行かないで。としか言われた事がなく、逆に″行きなよ″って言われると調子が狂う。
数知れずの女の中で、そう言われたのは美咲だけだった。
だから、やっぱほかの女とは違うってそう思ってしまった。
自分の事しか考えてねぇ女とは違う。
俺の外見だけ見てるような女とは違う。
だから余計に手放したくなかったのかも知れない。
美咲が言った通り、この業界、休めばグンと落ちてしまう。
だけどそれを分かったうえで承知しているのは俺だ。
「誰もみぃちゃんの所為だって言わねぇし。それに、みぃちゃんの事が心配なだけ」
「心配されるような年齢じゃないから」
「つーかさぁ、俺アンタじゃねぇんだけど。翔って言っただろ、分かった?」
美咲に覗き込むように微笑む。
そんな俺に美咲は呆れた様に顔を顰め、ため息を吐き捨てた。
美咲の腕を掴み、足を進め、
「乗れよ」
駐車場まで来てずっと呆然と立ち尽くす美咲の背中を軽く押した。
その反動で、美咲は助手席に乗ったものの、未だ呆然として硬直する。
なんだ、こいつ。その姿に思わず俺はフッっと鼻で笑った。
行き先を聞いた俺はなんとなく知っている場所で、そこまで車を走らせる。
「友達の彼氏なんだ…」
暫くして不意に呟かれたその言葉に俺は「うん…」としか返せなかった。
なんとなく分かっていたが、実際聞くと何も言えなくなる。
そのままお互い口を開くこともなかった。



