「いやいや、ううんじゃねぇよ。ママも帰ってるし」

「翔くんと帰る」

「なんでだよ、パパと帰んの」

「ううん。翔くんがいい」

「もぉ、なんなのコイツ」


諒也は呆れた様に呟き、動かない香恋の横に腰を下ろした。


「香恋、ママ待ってっから帰りな。また遊ぼ」

「明日も遊ぶ」

「明日は仕事だから無理だわ」

「無理?」


可愛い顔で香恋が俺を見つめる。

そんな香恋の頭を優しく撫ぜた。


「ごめんな。また遊ぼうな」

「うーん…」


俺の言葉に香恋は首を傾げて寂しそうな顔をした。

そんな香恋の頭を更に撫ぜると、諒也は困ったようにため息を吐き出した。


「ほんとに、こいつは…」


困った様に顔を顰める諒也に俺は苦笑いをする。


「翔さん、ところで美咲いつ帰ってくんの?」

「夏って言ってたけどな」

「夏っていつ?」

「さぁ、わかんね」

「なにそれ」

「今年に入って電話してねぇし」

「は?まじかよ」

「俺もなんか忙しくてしてなかったし、美咲も忙しいんだろうなって思ってそのまま」

「相変わらずだな、あいつ。どーせ、ごめん、ごめんっつって帰ってくんだろーな」

「だと思う」

「やっと美咲帰ってくんだな」

「まじで長かったわ」

「葵がさ、言うんだよ。5年前より絶対美咲は美人になってるって」

「なにそれ」


笑う諒也にフッっと笑みを漏らして、また美咲を思い出す。

忘れた事はなかった。

忙しくても頭の片隅に美咲をずっと置いて、今まで過ごしてきた。


長かった5年…

その5年が過ぎ去って、

もうすぐ美咲が帰って来る――…


《END》