結局、4ヶ月で退院出来るわけでもなく、退院できたのはすでに半年を過ぎていた。

蓮斗とは何もなかったかのように普通に戻り、梨々花も出産すると決めた。

美咲とは、美咲の誕生日に話したっきり、話してなくて、俺もいつも通りの日々送っていた。


退院する前と何も変わらなく、朝の仕事と夜の仕事に追われて。

だからなのか、余計な事をいっさい考えなくなっていた。

それが好都合で、毎日仕事に明け暮れていた。

気づけば28歳の冬、1月――…


「…翔くん、久しぶりね。もう1年以上来てないじゃない」


仕事終わり久々に来た沙世さんの店。

沙世さんは俺の顔を見て、深く息を吐き出した。


「そうだっけ?」

「そうよ。あなた全然来ないんだもん」

「俺が来たからって何もねぇだろ」

「たまには顔見せに来てよ」

「だから来たじゃねぇかよ」

「遅いご来店だね。…調子はどう?」

「いいよ」

「病院は?」

「行ってる」

「集中に大量摂取しちゃダメって言われてたけど、してないよね?」

「うん」


久しぶりに沙世さんのご飯を食べた後、ソファーに座ってスマホを見つめる。

画面に埋もれる仕事の内容。

って言ってもホストでもトビの仕事でもない。


ホストを辞めた後の仕事。

俺が夜の仕事辞めるという話がちらほらと周りが知り始めた。

業界はもちろん、今まで俺の周りの関係者が次々と声をかけてくるようになった。


もちろんホストを辞めてすぐって事ではないが、トビの仕事も終わりにしようと思っていた。


「…翔くんも後、2か月か、」


テーブルに水を置いた沙世さんが俺の前に座りニコッと微笑んだ。


「もう夜の仕事に未練ないの?」


続けてそう言った沙世さんは鞄の中から何枚かの名刺を取り出し、俺の前に差し出す。


「未練ねぇ…、なんもねぇわ。つか、何これ?」


そう言って俺は置かれた名刺を手に取って眺めた。