「何もいらねぇ。それだったら俺もじゃね?俺も美咲にあげてない。もうすぐ美咲も誕生日だし」

「覚えてくれてたんだ」

「忘れるわけねぇだろ」


むしろ最近はずっと思い出す。

何もしてないとやけに美咲を思い出す。

正直、それがしんどい。


「私は何もいらない。翔に沢山してもらったし、いっぱい貰ってる。だから気持ちだけで十分」

「気持ちか、」


小さく笑い一息吐く。

逢いたいと思えば更に気持ちが高まって、どうしようもなくなる。

5年のブランクがあまりにも大きすぎてしんどい。


他の女はどうでもいいから、美咲に…


逢いたい…


「…翔?」

「うん?」

「どうした?」

「……」

「なんかあった?」

「なんで?」

「いつもと違うから」

「そお?」

「うん。身体は大丈夫?」

「…ん、」

「ねぇ、翔?」

「……」

「聞こえてる?」

「……」

「翔?」

「…たい」

「え?」

「美咲に…、逢いたい」


無意識に零れ落ちた言葉。

俯いて指に挟んでいたタバコの灰がいつの間にか長くなっていて、それがポタリと落ちた。


絶対、口にはしないでおこうと思ってた。

だけど、だけど…


「…翔?」

「逢いたい。…美咲に」

「……」

「なぁ、美咲?こっちに――…」


その先がどうしても言えなかった。

こっちに帰ってきて。

そんな言葉言いたくても、言えなかった。


「翔?」

「…今からそっちに行こうかな」

「……」


心に秘めていた言葉が口から洩れてしまった。

俯いていた顔を上げ空を見上げて深呼吸する。

だけど――…


「嘘、冗談」


何もなかったように俺は吹っ切って、微かに笑いながらそう言葉を吐き出した。



そんな俺に美咲は――…

何も言わなかった。