「どう言う事?」


実香子に顔を顰めたまま俺は見つめる。


「えっと、違うの」

「は?何が?」

「蓮くんはそんな事言ってないの」

「じゃあ何であんな用紙持ってんだよ」

「蓮くんは何も言わないから梨々ちゃんが、そう言うことだよねって言ってた」

「そう言う事って?」

「おろせって事」

「はぁ?なんで?なんでアイツなんも言わねぇの?」

「多分、梨々ちゃんの事心配してんだと思う。梨々ちゃん一度子宮の病気してるからそれが影響してるんじゃないかなって私は思う」


そう言えば昔、蓮斗が言っていた。

梨々花が入院すっから仕事休むわって。

でも、だからって?


「だからって何で蓮斗は何も言わねぇんだよ」

「わかんないよ、そんな事」

「中絶しようとしてる事、アイツ知ってんのかよ」

「わかんない。蓮くんと話してないから」

「梨々花は?梨々花はなんて言ってんの?」

「産みたいって言ってたよ。でも蓮くんはそれを望んでないって」

「なぁ、実香子?俺、暫く外出してい?」

「えぇっ、ダメだよ。翔くん、まだ体調良くないから」

「パパっと外出届書きてくれていーから」

「だからダメだって!私にそんな権利ないから。お願い、翔くんおとなしくしててよ」


何がおとなしくだっての。

おとなしく出来っかよ。

蓮斗と一度話さねぇと気が済まねぇわ。


目の前の実香子は困った表情で俺を見て、そんな実香子に一息吐いて病室に戻った。

戻ってスマホを手に蓮斗に電話する。

長くコールが鳴った後、留守番サービスに切り替わり、そこに俺は声を残した。


「いつでもいいから病院に来いよ。話がある」


そう残して、蓮斗が現れたのはそれから三日後だった。