―――…


入院生活があまりにも長くて1日の時間が物凄く長く感じた。

何もしない日々がしんどくて、思い出すと言えば美咲の事しかなくて。

腕の繋がった点滴。

正直、この点滴が物凄く気分が悪い。


「…楓?」


俺が入院してると言う噂が広まった時、色んな女が病院に訪れるようになった。

入ってきたのはリアで、こんな病院で話す気にもなれなかった。

咳がやけに出る。

点滴の気持ち悪さの所為で吐きそうになる。


身体を起して咳き込む俺の背中をリアは優しく何度も撫ぜた。


「大丈夫?誰か呼ぼうか?」

「いや、いい」

「早く元気になって戻ってきて。楓が居ないと寂しい」


そう言ってリアは俺の身体をギュッと抱きしめる。

甘い匂い。

その匂いが余計に気分を悪くさせそうだった。


「リア?そんなに来なくていいから」

「なんで?楓の事好きだから一緒に居たい。私には楓しかいないもん」


リアは来るたび俺にその言葉を吐き捨てる。

俺が逢いたいのは、美咲。

ただひとりだけ。


「弱ってる男も好きなのかよ」

「えぇ、好きよ。だって、楓は楓でしょ?」

「……」

「ねぇ…キスしよっか。元気でるよ」


クスリと笑ったリア。

元気?そんなもん出るわけねぇだろうが。

つか、なんでそうなる。

この状況で、なんで。

身体を離し顔を近づけてくるリアの肩に手を置き、その身体を遠ざける。


「ごめん、気分わりぃの」

「だから誰か呼べば?」


また出てくる乾いた咳。

俯いてむせ返る咳の俺の背中をリアは撫ぜた。


「リアごめん。今日は帰って。今から寝るわ」


そう言った俺の言葉にリアはため息を吐き出した。


「――…失礼しまーす。点滴…あ、」


実香子が入ってきた瞬間、戸惑ったようにリアを見た。


「楓。…また来るから」


リアがカツカツとヒールの音を立てて病室から出ていく。

その後ろ姿を見ていた実香子はため息を吐きながら俺に視線を向けた。