「…翔くん?探したわよ。電話にも出ないし」


暫くして沙世さんがため息交じりで俺の前に座ったのがわかった。

未だ突っ伏してる俺に、沙世さんのため息がもう一度降りかかった。


「実香子ちゃんが手続き書類持ってきてくれるから、それ書いたら帰りましょ」

「……」

「あなたはほんと頑張りすぎるわね。ほんと百合香とそっくり」

「……」

「ちょっとこの辺で一度、休養したら?一番大切なのは自分自身だよ」

「お待たせしました」

「あ、実香子ちゃんごめんね」

「この所の緊急連絡先と、あとここと、ここに記入してもらってもいいですか?ここは翔くんで」


実香子の声の後、沙世さんのボールペンを走らせる音が聞こえる。


「翔くんも書いて」


沙世さんが俺の肩に触れ、俺は頭を上げてペンを走らせた。

その紙を実香子の前に差し出す。


「ありがとう」

「なぁ?タバコは吸っていい?」

「禁煙とまではいかないけど、出来るだけ控えて。お酒は飲まないでほしい。薬が効かなくなる」

「わかった」


病院を後にし、沙世さんに送ってもらう。

何も考えたくもねぇし、何もしたくない。

だけど、その浮いた時間が、余計にうっとおしく感じた。


…美咲の事を考えてしまうから。


夜の19時を回ったころ。

家に流星が来た。

実香子に聞いたって言う連絡を受けて。


「大丈夫か?お前…」

「大丈夫だったら入院なんかしねぇよ」

「そらそうだ」


ハハッと笑う流星は俺が寝転んでいるソファーの前に腰を下ろす。


「なぁ?諒也にはいわねぇでくれる?」

「どーせバレんだろ。お前、行ってたんじゃねぇの?」

「行ってたよ。香恋産まれてっし、余計な心配させたくねぇんだよな」

「まぁ…な、」

「聞いてきたら言ってもいいけど、お前から言うの辞めて」

「美咲ちゃんは?どーすんの?」

「言うわけねぇだろ。言うほどの事じゃねぇしな」


別に死ぬ病気でもねぇし。

あとまだ美咲は2年残ってんだよ。

俺の所為で引き戻す事も出来ないし、俺の為に帰ってきてほしくもない。