「美咲!!」


その叫んだ声に反応した美咲が振り返る。

そして俺の姿を見つけた時、美咲は驚いた表情で俺を見ていた。


「良かった。…間にあった」


一息吐き、乱れる呼吸を整えようと、何度か深呼吸する。


「なんで?来ないでって言ったじゃん」

「やっぱ、そうにもいかねぇよ」

「離れるの辛くなるから来ないでって言ったじゃん」


困った表情で言葉を吐き出す美咲の目が少し潤んだように見える。

それは俺も同じ。

でも今、会わないと俺は後悔するだろう。


「最後くらい会わせろよ」

「足進まないじゃん。翔の顔見ると足進まないじゃん。もう行こうとしてたのに…」

「ごめ…。どうしても会いたかった。だから美咲のお母さんに聞いた」


そう言って美咲の身体を抱きしめた。

どうしても会わずにはいられなかった。


美咲の片方の腕が俺の背中に回る。

その美咲の後頭部を支えて、俺は自分の胸にへと押さえ、更に抱きしめた。


…泣いてる?


何も言わない美咲に問いかけようとしたが、ソレを口にすると余計に離れずらくなるから敢えて言わなかった。

暫くして美咲の身体を離し、俺はさっき買った小さな箱を取り出す。


「これ、美咲に…」


あけた小さな箱から輝く指輪から視線を美咲に向けると、美咲は目を見開き、俺を見つめた。


「浮気防止」


そう言って口角を上げる俺に、美咲は戸惑いの表情を浮かべた。


「浮気って、私しないし」

「ってのは嘘で。結婚して」

「…え?」


一瞬にして美咲の瞳が混乱の所為か揺れる。

そりゃそうなるだろう。

そんな5年後の未来の先なんか俺にも分からない。


しかも何で結婚という文字を出したのかも俺にも分からなかった。

そんな簡単に決められる事でもないのに、簡単に吐き出してしまった言葉に…


きっと俺の中での不安ってものがそうさせていたのに違いない。

分からない5年の未来。


美咲が俺の元に帰ってきてくれる事をただ、信じたかったのかもしれない。