「とりあえず、これは返すから」


中身を見なくてもそれが何なのかはすぐに分かった。

だけど、


「何?」


平然を装って、その封筒から視線を外すと、美咲は更に顔を顰める。


「何ってお金だよ。アンタがバラ撒いて行ったお金!!」


やっぱりな。

つか貰っとけばいいのに。

もう俺の中ではあげたのと同然、お前と会うこともねぇと思ってたから。

むしろ、このまま会いたくなかった。


「何で?これ、みぃちゃんにあげたんだし」

「訳わかんない事言わないで!!私は貰うつもりなんて―――…」


勢いよく声を上げていた美咲は、一瞬にして途中で声をピタリと止める。

未だ俺の胸に封筒を押し付けたまま動こうとはしない。


いや、じゃなくて。美咲の視線は俺じゃなくて、後ろの道へと向いてた。

誰かを見つめてるような…と思えば一瞬にして焦った表情をし、そのまま美咲は俺に背を向ける。


「どした?」


何が何だか分からない俺は美咲の前に立ち、顔を覗き込む。


「ちょっ、」


慌てたような焦ったような表情で、そのまま美咲は俺の胸へとしがみつく。

まるで子猫のように身を縮めながら俺に密着してきた。


なんだよ、こいつ。

誰かに見られない為なのか、隠れるようにする美咲。

辺りを見渡したけど、別に何があるってわけじゃなく、行きかう人で溢れてた。


もしかして、こんなかに見られたくない奴がいんのかよ。


次第に美咲は俺のジャケットをギュっと握り始める。

その密着してきた美咲を利用して俺は美咲の身体をギュっと抱きしめた。


こいつ、細せぇー…

まぁ、あんな飯じゃ太らねぇよな。


「みぃちゃん、そんなに俺の事好き?」


面白おかしく言った事に思わず笑みが零れる。

更にギュッと美咲の背中に回してた腕に力を込める。


それに気づいたのか、美咲は我がに返ったようにハッとし慌てて俺の腕を振りほどいた。