「馬鹿。行けよ。俺をあやふやにすんなよ」

「あやふやにしてんのはどっちだよ。翔じゃん!!」


ごもっともな言葉を吐き出す美咲に、自分でも納得する。

ごめん。の言葉しか出てこなくて、泣きそうになる美咲をどうすることもできなかった。


「悪い。さっきのは聞かなかった事にして」


俺がどうにかしてたから。

俺が言ってはいけない言葉を口にしてしまったから。

美咲はもう決めてんのに、迷わすような言葉を言ってごめん。


「そんなの出来ないよ」

「行くなって言って引きとめてまで、俺はみぃちゃんを幸せにする自信ねぇの。今はまだ…」

「……」


本当に今はまだ美咲を幸せにすることはできない。

俺がまだガキで、そんな大切にするほど大人になってねぇから。


「だから5年後。すんげぇ幸せにするから。…それまで待ってて」


美咲の潤む瞳をみて我慢できなくなった。

ギュッと抱きしめる美咲からすすり泣く声が密かに聞こえてくる。

そして数秒して美咲が俺の身体を引き離すと、


「バイバイ」


俯いたまま美咲は小さく呟いた。



「またな」


これ以上ここに居たら、足が進まなくなるだろうと思い、俺はすぐにその場を離れた。

ドアを閉めた後、深く深呼吸をする。


きっとあのまま美咲は涙を流しているだろう。

その涙を俺は拭ってやる事も出来なかった。


そうすればするほど、離れずらくなるから。