「あんまり遅くなると危ねぇから」

「大丈夫。怖かったら朝まで居るから…」

「うん、じゃあそうしな。その方が俺も安心だし」

「うん…」

「みぃちゃん…」


俯いていく美咲の傍まで行き、俺はその場でしゃがみ込む。

そして美咲の顔を覗き込み、美咲の頭をゆっくりと撫ぜた。


「頑張れよ」

「……」

「あんまり、みぃちゃんにはいい事してねぇし、辛い思いもいっぱいさせたけど」

「ううん。そんな事ないよ。助けてもらってばかりの日々だったよ」

「もっと一緒に居る時間、増やせばよかったけど。…ごめんな」

「……」


ごめん。

色々言いたいこともあったと思うのに、我慢させてごめんな。

俺に合わせてくれてありがとう。


「みぃちゃんと出会って今まで楽しかった。出逢ってくれてありがとう」

「私も、楽しかったよ」

「あっちに行ってもちゃんと食えよ。じゃあ、バイバイ」


美咲の頭から手をスルリと離していく。

5年後の先の事なんか、どうなってるのか分かんねぇけど、俺は待ってる自信はある。

美咲はどうか分かんねぇけど、俺は待つ。


「…翔!!」


玄関までたどり着いた俺の背後から、美咲の叫んだ声が飛んでくる。

その声に振り返った俺は近づいて来る美咲の顔を見て、また抱きしめたくなった。


だけど今にも泣きそうなその表情に、俺は触れられなかった。


「どした?」

「翔が行かないでって言ったら私行かない!翔が居てって言うのならあたし行かない!今からでも辞めて翔と居る!」


泣きそうに必死で叫んだ美咲の瞳が薄っすらと赤みをおびていた。

ほんと、何言ってんの?ってそう思った。

でも、そうさせてんのは紛れもなく俺で――…


これ以上、美咲を悩ませないように、俺は頬を緩めた。