「じゃあね、実香子ちゃん。俺、早く帰りたいから」


フッと笑みを漏らすと、「もぉ」と実香子の不意に落ちない声が呟かれる。

ヒラヒラと手を振って、俺は検査を済ませて、すぐに帰宅し夜の仕事へと向かう。


ホストと言う仕事をしている時間は、もちろん楽しくないわけでもない。

華やかで煌びやかなこの空間が全てを忘れさせてくれる場所でもあった。

騒いで、弾けて、仲間と過ごすこの時間は好きだった。


でも業務が終わるとさっきまでの賑わいが静けさを纏う時、ふと美咲に会いたいと、そう思う頻度が増える。

最近はやけに思う。

あと一週間。

来るよ。と言った美咲は卒業式後、まだ一度も来ることはなかった。


「相変わらずだなぁ、マジで」


思わず零れてしまった言葉と共に苦笑いが漏れる。

スマホの画面を見つめ、そこから美咲の番号をうつしだす。


仕事終わりの時間に電話をすることは今までずっと控えていた。

時間も時間だし迷惑な時間。


だけど、残り少ない時間。

俺は躊躇うことなく美咲にコールしていた。


もうすぐで1時半になろうとする時間。

鳴り続けるコールが暫く続き、諦めて切ろうとした時、


「はい」


美咲の声と共に混じって聞こえて来た周りの雑音に違和感を感じてしまった。


「ごめん。こんな時間に」

「ううん」

「つか、どこに居んの?」


ザワザワと聞こえる音に俺は美咲に問いかける。


「あー…」


濁すように戸惑う美咲は移動したのだろうか、その雑音が静けさに変わった。


「みぃちゃん、何してんの?」

「あー…うん、バイト」

「はい?」

「あ、でも今から帰るの」

「いやいや、何時だと思ってんの?」

「あー…、1時過ぎてんね」


ぎこちなく言葉を吐き出す美咲に俺は無意識にため息を吐き出していた。