「また病院の話かよ」

「またって何?久々に会ったから聞いてるのよ」

「はいはい、明日行きます」

「ほんとかしら」

「はい行きます」

「嘘くさい言い方ね。どこか体調が悪いから沈んだ顔してるんだと思ったら違うっぽいね」

「……」


沙世さんは俺の顔を見て頬を緩めた。


「寂しそうな顔してる」

「そう?」

「終わったら店に来る?」

「行かね」

「そっか」

「あーっ、かえでーっ、」


沙世さんの後、弾けた声が飛んでくる。

そっちの方向を向けると女が駆け足で走って来るのが見えた。

そんな光景に沙世さんはクスリと笑みを浮かべた。


「じゃあ、来たくなったらおいでね」

「あぁ」


俺に背を向けた沙世さんから視線を外した瞬間、勢いよく飛びついてきた女に思わず後ずさりする。


「おぉっ、あぶねぇって、」


持っていたタバコを遠ざけ、抱きつく女を見ると、「久しぶりっ、会いたかった」そう言って更に俺を抱きしめた。


「久しぶりって、一昨日も会ったじゃねぇかよ」

「だって昨日は会ってないから!楓とは毎日会いたい」


抱きついてた腕を緩め、俺を見上げて女は微笑んだ。


「嬉しいね、そんなこと言うの。で、ちょっと一旦離れようか。タバコ持ってっから危ない」

「えーっ、」


タバコを口実の様に使って、俺の身体から離れてもらう。

渋々離れて行った女は不満そうに俺を見つめた。


「好き」


そう呟いた後、女は頬を緩めて俺を見上げる。

そんな女に俺は思わず苦笑いをした。


「俺も好き」

「えーっ、ほんとに?全然愛が伝わらなかったー」

「すんげぇ愛詰め込んでやったのに。ほら中入んぞ」


笑いながらそう言って手に持っているタバコを隣にある灰皿に押し潰し、足を進める俺の腕に女は腕を絡めてきた。

なるべくホストと言う役割を果たしている時は美咲の事を考えずにしていた。

考えれば考えるほど自己嫌悪に浸ってしまうから。


だけど、ここ最近はそうにもいかなかった。

離れる5年がやけに長く感じてしまう。

別にどおってことないと思っていた5年が物凄く遠く感じた。