車を停めて店に入り、冷蔵庫から水を取り出しそれを喉に流し込んでいると、俺の背中が誰かに叩かれ、思わずむせ返った。

ゴホゴホと咳をし、少し零れた水を手で拭い、俺は眉間に皺を寄せる。

小さく舌打ちをし、背後を振り返ると、流星が不機嫌そうに俺を見つめていた。


「んだよ、お前。飲んでる時に叩くなっつーの」

「お前さ、俺に言う事ねぇわけ?」

「は?何が?」

「何がじゃねぇだろ。お前、俺に何頼んだ?」


そう言われてピンとこなかった。

は?何のこと?と、思った瞬間、流星の不機嫌そうな顔でようやく思い出した。


「あ、」

「あ。じゃねぇよ。なに、あの頼み事」


すっかり忘れていた。

実香子の頼み事を流星に頼んでた事を。


「あ、あぁ…。出会えた?」


そう言って、俺は咄嗟に笑みに変えて流星の肩をポンポンと軽く触れる。


「出会ったから今、話してんだろうがよ」

「そりゃあ良かった」

「余計な事すんなや」

「余計な事じゃねぇだろ。実香子の為だろうが」

「その実香子が俺が来たことで困ってた」

「仕方ねぇだろ。お前しか居なかったんだからよ。蓮斗の奴も無理っつったんだからよ」

「は?お前、レンにも言ったのかよ」

「あ、あー…悪い」

「で、お前に伝言あづかった」

「は?なに?」

「病院来いだってよ。血液検査しに来いっつってた」

「あー…病院ね、」


ほんと、俺が絡むとそれかよ。

俺=病院。になってんのも仕方ねぇ事なんだけど。


「お前が行かなかったら俺にまで連絡くっから行けよな」

「蓮斗と同じ事言うなや。俺の顔みっと病院、病院って、他になんか言う事ねぇのかよ」

「別にお前がどうなっても俺はどーでもいいけど、美咲ちゃんの事、困らせんなよ」


クスリと笑った流星にため息を吐き捨てポケットから出したタバコに火を点けた。

咥えたまま外に出て、ビルの壁に背をつけて、俺は煙を吐きながら夜空を見上げた。


病院、病院。美咲、美咲って、うっせぇな。