「あぁ、そっか。お母さん喜ぶよ」

「うん」


頷いて笑みを漏らす美咲はソファーに座り、持っている卒業証書の筒を鞄の中に入れる。

その光景を見ながら俺はテーブルに置いていたペットボトルを掴んで、喉に流し込んだ。


「みぃちゃん、昼ご飯は?」

「食べたよ。葵と食べて来た」

「そっか。時間あるし、どっか行く?」


俺の言葉に美咲はスマホを取り出し、画面を見つめる。

時間を確認したのか、美咲はスマホを仕舞い、軽く首を振った。


「ううん。翔、疲れてるでしょ?こんな時ぐらいゆっくりしたら?」

「こんな時って何?こんな時こそ、みぃちゃんとどっか行きてぇんだけど。思いで作り」

「思い出って、なに?もう十分思い出あるけど」


そう言うと思ったわ。

ほんと。

これが美咲か。

もう十分思い出あるってか?

俺はまだなんもねぇけど。


そう思うと俺はフッと思わず鼻で笑い、美咲の隣に腰を下ろした。


「ほんと、俺の事ばっか心配すんね、みぃちゃんは…」


そう言って俺は隣に居る美咲の肩に自分の頭を乗せ、ゆっくりと息を吐いた。

ほんと俺の事ばっか。

俺と会うといつも俺の事を心配する美咲に苦笑いが漏れる。

こんなに俺の事を心配する女なんて、今までで初めてだわ。


「だって…」

「疲れてないから平気。みぃちゃんに会えたら疲れなくなるから。どこ行く?どこでもいいよ」

「ううん」


美咲の肩から顔を上げ見つめると、美咲は微笑んでまた首を振った。


「行きたい所ないからここでテレビ見よっか」


更に笑った美咲はテーブルにあるリモコンでテレビをつける
そんな美咲に俺は呆れた様に笑みを漏らした。


俺に対しての気遣いなのか、それは分からないが、俺の対して優しさなのは十分にわかる。

これが美咲だなって、思う。