「え、なにお前。ユウトに頼んだのかよ」

「だってそうするしかねぇしよ」

「実香子の事言ったのかよ」

「何も言ってねぇよ。とりあえず来いっつった。その後の事は、もう知んねぇわ」


苦笑いでそう言って、手に持っていたスマホをポケットに入れる。


「その後日のややこしい事、俺にぶっこんでくんなよ」


同じく苦笑いで口を開く蓮斗に、「さぁ…」とだけ笑みを浮かべて呟き、蓮斗に背を向けて歩き出す。

だって、もうアイツしか居ねぇし。

そもそもこれが一番手っ取り早くて、これで良かったんじゃね?なんて思ってきた。

この後、どうなるかとかもう知らねぇし、どうでもいい。

実香子には悪いが、、、


そんな事より俺は早く仕事を終わらせ蓮斗と昼食を済ませた後、帰宅する。

風呂に入った後、冷蔵庫から取り出した水を含みながら俺はソファーに腰を下ろす。


と同時にガチャンと鍵が開く音に反応した俺は立ち上がり、足を進めた。

玄関に続く扉を開け、廊下に出ると、美咲と不意に視線がぶつかり笑みを浮かべる。


「おかえり」


そう言った俺に美咲は頬を緩めた。


「ただいま。居ないかと思った」

「居るに決まってんじゃん。大事な日なのに」

「別に大事じゃないよ。ただ卒業しただけ」


美咲はぎこちなく笑って、俺の横を通り過ぎソファーに鞄を置く。


「だから大事じゃん」


微笑んだ俺に美咲も頬を緩めたかと思うと、その微笑みは一瞬にして消し、俺を見つめた。

その瞳が何故か寂しそうに見えて――…


「今日、行くの?夜の仕事…」


悲しそうに見えてしまった瞳の意味が理解できた。

思わず頷き、軽く息を吐き捨てる。


「ごめんな」

「ううん。翔が行った後、家帰るから。ママにも見せたいし」


美咲は持っている卒業証書の筒を振り俺に笑みを向ける。

俺は、その美咲の笑みが何も思わないように作ってる笑みに見えたのは気のせいだろうか。

行かないで。ともう一度、言ってほしいと思う俺はいったい何を期待してるのだろうと、自分にでも分からなくなった。