駐車場に車を停めて、水と缶珈琲を買う。
車中にそれをいったん入れ、車の前で一本の煙草を咥えた。
咥えたタバコに火を点け、吸い込んだ煙を深く吐き捨てた時、
「――…あ、ちょっと待って、まだ行っちゃダメ、」
隣から女の人の声が聞こえ、俺は必然的に視線を送っていた。
よちよち歩く小さな子供を追っかける様にして来た母親が抱っこをする。
その光景から笑みを漏らして視線を避け、もう一度タバコを咥えた時、
「…翔くん?」
不意に呟かれたその声に俺の視線が動いた。
「…あ、桃華さん」
「やっぱり翔くんだった。さっき店の中でそうかなぁって思ってたの」
そう言ってさっきの子供を抱きかかえる母親は桃華さんで、俺は頬に笑みを作った。
2年近くは会っていないのだろうか。
明るい長かった髪が肩まで切られていて、その色が薄い茶色になっていたせいか全く気付いていなかった。
桃華さん全然かわんないな。
蒼真さんが可愛い、可愛いって、言う気持ちもわかる。
「全然気づかなかったわ。久しぶりっすね」
「ほんと久しぶりだね。元気にしてるの?」
「元気っすよ。蒼真さんは元気っすか?」
「元気だよぉ。もうね、ホスト時代とは比べ物にならないくらいに23時には爆睡してるよ」
「ははっ、そうなんすか?なんか連絡しようと思ってたんすけど、忙しくしてるみたいな事、小耳に挟んだから連絡しないままになってしまって」
そう言うと、桃華さんはアハハと声を上げて、頬を緩めた。
「もう、蒼真と同じこと言ってるよー」
「え?」
「蒼真も、翔くんに連絡したいけど、アイツ毎日忙しすぎて電話出来ねぇわって言ってたもん」
「あー…、そうなんすか?」
「ほんっと、あなた達、昔から似てるところあるよね」
そう言ってクスクス桃華さんは笑った。
桃華さんは、元ホストをしていた蒼真さんの嫁。
俺がホストに入った時、俺はその頃のNO1だった蒼真さんを尊敬していた。
NO1と言うことに尊敬していたんじゃなくて、その人の人柄に尊敬していた。
そして今でも俺の中での憧れの人である。
あの頃の俺はほんとに馬鹿でどうしようもなくって、その蒼真さんに育ててもらったようなもの。



