「謝んなって」


手に持っていたタバコの煙を一度吸い、美咲の腕を振りほどく。

向かい合わせになり、あまりにも長いその灰を俺は一旦、シンクに落とした。

そしてその悲しそうな顔をする美咲の身体を俺は抱きしめた。


ちゃんと食ってんのかよ。と思うほど華奢な身体。

ギャッと更に力を入れると壊れるんじゃねぇのって思うほど。


「私…申し込み用紙に全部記入して今日、提出したんだ」


そう言われると、なぜかその現実を受け止めたくなくなる。

顔を背け、タバコを咥えて煙を吐き、そのタバコはシンクの中ですり潰し、そしてもう一度、抱きしめた。


「いつ出発?」

「分かんない。返事待ってから」

「そっか。決まって良かったじゃん」


そう口では吐けるのに、内心は複雑だった。

美咲の身体を離し、俯く美咲の頭を数回撫ぜる。


そっか、

うん。

そっか、行くんだな。

と心の中で何度も呟いた。


そっと離れた美咲の身体。

その美咲の目には潤むものが見える。

その表情を見られたくないのか、美咲は俺から離れ、その足はソファーへと向かった。


ソファーに座って横になると、美咲はそのまま顔を腕で隠した。

身を縮める美咲に一息吐き、俺はその場から離れる。


なんで、決めた事なのに喜ばねぇの?

なんでそんな悲しそんな顔すんだよ。


そんな顔、見せんなって。


そう思いながら俺は私服に着替え、クローゼットに仕舞っていた、ソレを手に取る。

真っ赤なリボンで結ばれた長細い箱。

ソレを手に持ち、再びリビングに足を進めた。