「いやいや、俺じゃねぇ奴に頼めよ」

「だからさっき言ったでしょ?誰も頼める人がいないって。いたらとっくに頼んでるよ」

「まぁ…うん、…そだな」

「ほんとにお願い」


実香子にそんな事言われたらこれ以上断れなくなってしまった。

そもそも俺はそんな話をしたいが為に実香子を誘ったわけでもない。

じゃあ、何で誘った?

それは今でも分からなかった。


「一回だけな」

「うん、ありがと」

「バレた時は知んねぇからな。お前でちゃんと解決しろよな。そー言うのめんどくせぇから」

「わかってる。なんなら本当の彼氏でもいいけど」


クスリと笑った実香子に俺も頬を緩ませる。


「ごめんね、実香子ちゃん。俺、好きな奴いんだわ」


そんな俺の言葉に実香子は更に笑いだす。


「って、俺。そんな面白い事言ってねぇんだけど」

「いや、翔くんの口からまさかそんな言葉が出て来るなんて思わなかったよ。女は面倒ってずっと言ってた人がね」

「そう。だからごめんね」

「私も翔くんの事好きじゃないから大丈夫。安心して」

「は?何の安心だよ。意味わかんねー…でさ、お前いま好きな奴いんの?」


もうその話は逸らして、俺は実香子に視線を向ける。

まるで、なんでそんな事きくの?ってな表情で俺を見つめ返した。


「急になに?」


案の定、実香子は低い声を出し視線を下に下げる。


「別に急にじゃねぇし」

「もしかしてその為に私を誘ったの?」

「いや、普通に腹減ってたしな」


はぁ。とため息を吐き出す実香子は箸を掴んで動かした。


「いないよ。今は仕事が恋人」

「は?なんだそれ」


動かしていた箸を止め、思わずハハっと笑う。

案の定、実香子の眉が寄る。

だけど、それ以上、俺の口からは何も言えなかった。

1番気になってた事。

そう。流星の事を気になっていた。


一年前に出会った時、まだ好きと言っていた実香子。

今はどうなんだろうと。

こんな事、俺が気にする事でもねぇんだけど、前回の実香子の寂しそうな顔が忘れられなかった。

だからと言っても、これ以上、何も聞けずにいた。


食べ終わった後、外に出てタバコを咥える。

数回吸って、出てこねぇ咳に安堵のため息を吐き捨てた時だった、込み上げてくる咳に思わず舌打ちをする。

コホン、コホン。と喉の奥から湧き上がってくる咳に嫌気がさした。