「だって、そんな所で翔くんといると皆が見るし」

「別によくね?」

「私が嫌だから。根掘り葉掘り聞かれる」

「何それ」


素っ気なく小さく呟き、店の中へと入る。

座って、注文をしたあと、俺は実香子を見つめた。


「…で?さっき言ってたのってそんな理由じぇねーだろ?」

「え?」

「病院の食堂で食べたくない理由はそれじゃねぇだろって」

「えー…なんで?」

「お前みてっとわかるわ。顔に書いてある」

「…っ、」


小さく呟いた実香子はハッとして戸惑ったように手で頬を触る。

そんな姿に俺はクスクス笑みを漏らした。


「んな、書いてあるわけねぇだろ」

「分かってるよ、そんな事」


頬を膨らませた実香子は視線を下げフッと息を吐き出したと同時に目の前に定食が置かれる。


「で、どした?」

「ちょっと何度か誘われてる人がいてね」

「男?」

「うん」

「で?断れねぇからずっとソイツと食ってんだ」

「うーん…そうでもないんだけど、休日とかにも誘ってくるからさ。あ、ここの病院の人じゃないんだけど、たまに顔出しに来るの。たまたま今日出勤してて」

「へぇー…」

「彼氏いるって言ってもあんまり聞かなくて」

「えっ、お前男いんの?」


驚いたその言葉で動かしていた箸が必然的にとまる。

そして実香子に視線をうつした。


「居るわけないでしょ」

「いや、だって、今いるって言ったじゃねぇかよ」

「口実だってば。そう言ったら諦めてくれるかなーって」

「あぁ、そう言う事な」

「あ、そだ。ねぇ翔くん?お願いっ、」


顔を顰めた実香子は箸を置いて、顔の前で両手を合わせた。


「なに?」

「お願い。私の彼氏役してよ」

「はい?なんで俺?」

「だって、こんな事頼める人いないよ」

「はぁ?」

「彼氏いるって言ってんのに信じてもらえてないって事は嘘って思ってるって事だよね?」

「さぁ?」

「だから本当にお願い。ね?翔くん…」


未だ申し訳なさそうに両手を合わせる実香子に俺は一息吐いた。