どれくらい居たのか分かんなかった。

店を出た時には、全く居なかった街に人が溢れ出す。

また今日も一日が始まろうとする。


青々と広がった空に向かって伸びをする俺は、


「サンキューな、金」


ミカを見て腕を下ろした。


「別にいいよー…」

「今度おごっから」

「楓の今度っていつか分かんないから、もういいよ」

「え?」

「何があったか知んないけど500円じゃね」


クスクス笑うミカに、「うるせーな」と小さく呟く。


「ねぇ、」


振り返ったミカの両手がいつの間にか俺の両肩に置かれ、ミカは俺を見上げた。


「は?なに?」

「キスしよっか」

「お前なぁ…」


ため息交じりに呟く俺にミカはニコっと微笑んで肩から手を離す。


「もしかして本気にした?」

「するわけねぇし…男居んのに軽々しい奴」

「別に軽々しくないけどさ。楓が変だからだよ」

「俺?」

「この前は不機嫌まっしぐらと思えば今日は簡単に来てくれるし。なんか上の空って感じ」

「別にそーでもねぇけど」

「ねぇ、気になる人できたでしょ?」

「だから、いねぇから」

「そっかなぁー…。でもさぁ、もし居たとしたら軽々しく″好き″って言わない方がいいよ」

「何で?」

「ホストだから」

「は?」

「胡散臭いからに決まってんじゃん」

「あぁ、そうかよ」

「ホストじゃない楓は好きだよ。何に悩んでんのか知んないけど、らしくないよ」

「はいはい」


適当に軽く流してため息を吐く。

…胡散臭いか。

相当馬鹿にされてんな、と思いフッと鼻で笑った。