「で、そんな奴いた?」

「居ないよ。何人かと付き合ったけど、いなかった」

「……」

「なんかさ、あの頃より親もうるさくなくなったんだよね」

「……」

「私の人生なんだから自由にさせてよねって思うけど。でも今は物凄く自由。カリカリしてた親も柔らかくなってね、居心地最高だよ」


頬を緩めた実香子に俺は頬杖をつき、覗き込むように実香子を見つめた。

その俺の視線に、うん?と首を傾げる実香子に目を細める。


「アイツの事、まだ好き?」


直球で言葉を投げかけた俺に、実香子は飲んでいた珈琲を喉に詰まらせる。

ゴホゴホとむせ返る実香子に、「好き、だろ?」更に問い詰めた。


「ちょっと急にそんな事言わないでよ」


顔を顰めてテーブルに零れた珈琲を紙ナプキンで拭く実香子に、俺はゆっくり口角を上げた。


「やっぱ、そっか」

「翔くん、私をからかう為に誘ったわけ?」

「違うけど。単なる、実香子と最後に会った日。泣いてるお前を忘れられなかったから」

「……」

「アイツの事、まだ忘れられないっしょ?」

「あー、もう!私これから予定あるの。もう行くね、」


立ち上がる実香子に俺はクスリと笑う。


「実香子ちゃん、可愛いね」

「そう言うのやめてくれるかな?…はい、私の分ね」


テーブルに置かれた千円札。

その腕をグッと掴んで置かれたお金を反対側の手で実香子の鞄の隙間に滑り込ませた。


「アイツなら元気だよ。…じゃあね、時間とらせてごめんな」


クッと口角を上げると実香子は困ったようにフッと息を切らせた。

消える際に言われた実香子の言葉が未だ流星に伝えられずにいる。


“…まだ好きだよ″


その言葉とともに“言ったら翔くんの事、許さないから″真剣な口調ながらに微笑んだ実香子の言葉が――…