閉店が近づくころ、俺は大通りまでリアを見送る。


肌寒い空気の中、俺とリアは隣を歩いた。

カツカツとリアのヒールの音が止まると同時に振り返ったリアが不意に俺を強く抱きしめた。


「…好き」


零れ落ちた小さな声。

少し背伸びをしたリアの頬と俺の頬が触れた瞬間、リアの頬がほんのりと温かく感じた。

いつもより飲んでいた所為で酔ってんだろうか。


「どした?」

「キスして。楓としたい」


見上げて来たリアに俺はフッと口角を作る。


「つか、飲みすぎ」

「飲みすぎじゃないわよ。キスぐらい減るもんじゃないでしょ?セックスしようって言ってるんじゃないんだし」

「マジ酔い過ぎだからお前。帰って寝ろ」


サラっとかわした所為かリアは顔を顰める。

その顔の表情を見ないようにと、俺はリアを抱きしめ返した。


そうした所為で、キスを諦めたリアが抱きしめ返してくる。

リアの甘ったるい香水が俺に纏わりついて来る。

これ以上、その匂いに染まらないようにと俺はスッと身体を離した。


「リア、気をつけて帰れよ」

「……」


顰めっ面になるリアに俺は頬を緩ませる。


「何かご不満でも?」

「それに応えてくれるのかしら?」


両腕を俺の首に絡め、見つめてくるリア。


「内容によっては断る事もあるけど」

「何よそれ。私の事を拒否る男なんて楓くらいしか居ないわよ」

「それでも俺がいいんじゃねぇの?」

「ほんと、私もどうにかしてるわよね。寝てくれる男くらいいっぱい居るわよ。なのに楓じゃないとダメって、」

「リアが居るから今の俺が居んの。リアには感謝してる」

「楓を一番から落としたくないもの。だから別にいいでしょ?キスくらい――…」


不意に塞がれた唇。

リアの冷たい唇が俺の熱を奪っていく。


俺、何してんだよ。

なんでリアにキスされてんだろうと。

リアの唇が角度を変えながら動く。


俺の首にグッとリアの腕に力が入った瞬間、ハッと我に返る。

リアの肩に手を置き、身体を離すと必然的にお互いの唇が離れた。