あと一時間で閉店するその時間、リアが来た。

相変わらず人目を引きつけるそのオーラに新人で入って来た奴らは大概目を追う。


そういやリアに逢いたいと言われて断った際、明日来ると言っていた事を思いだす。


「昨日はごめん」


リアの横に座り軽くリアの頭に触れた。

そうする事でリアが頬を緩めるのが分かる。


「ほんとにお母さんだったの?」

「ほんと、ほんと」


ホントと言えば噓になる。

ごめん、沙世さん。使わせてもらう。

心の中でそう呟き口元に笑みを浮かべた。


「楓の口からお母さんのワード初めて聞くから嘘くさいわよね」

「嘘くさいって言うなよ」

「だって本当の事だから」

「なんかあった?」

「一緒に居た男が退屈だったのよ。だから楓と会いたかった。ただそれだけよ。会いたいに理由なんてないでしょ?」

「なるほど。まぁ俺と居ても満足出来るかわかんねぇけどな」


そう言ってフッと鼻で笑った俺に対してリアは頬を緩めた。


「満足するから来てるんだけど」

「嬉しい事言うね、お前は。で、俺が来ないからその退屈だった男と朝まで共にしたってわけ?」


クスリと笑ったリアがワイングラスに手を付け、ゆっくりと口に含んでいく。

珍しく飲み干すリアは更に口角を上げた。


「愛はないけどね」

「あるのは俺だけって?」

「そう。楓じゃなきゃ嫌。だから一番にしたいって思う」

「俺もお前が好きだよ」


そこに愛はないけど、リアは大切で離せられない。

授業員と客の一環として。

少し離れた席にいるルイとは違う。

客を繋ぎ止めるために身体を重ね合ってまで、この仕事はしたくはない。


それをしてしまうと、過去の自分から抜け出せなくなる。

それ以前に、美咲の傍に居ると言った限り誰とも一線を超えたくは、ない。