「おいっ、忘れもん」


ソファーの後ろから流星に投げられたネクタイ。

肩に乗っかったそれを見て、今更してなかったと気づく。


「ちょー、聞いて!私の事な浮気しそうとか言うねん。めっちゃ一途やのに!むしろ寝てて私を待たせるとかなんなん?」


ほろ酔い気分の夏菜は俺の後ろに居る流星に声を投げかける。

案の定、流星の笑い声が響き渡り俺の横にスッと腰を下ろした。


「これで縛っとけ」


そう言いながら俺の膝にあるネクタイを夏菜に渡し、「こいつそう言うプレイ好きやから」また笑みを漏らす。


「え、楓そんなん好きなん?ドМやん。縛ろうか?」

「あはは。ガッチリ縛ったれ。好きな奴にはこんなん頼めんからな」


と言うか、面白がって言ってくる流星を横目で睨む。

だからなのか、夏菜は一瞬キョトンとした顔をした。


「え?楓好きな人いんの?」


ほら、きた。

そうくると思った。

だから思わず俺の読みが当たった所為か、苦笑いが漏れる。


「好きな奴はお前や。てか待っとけよ」


そう言って俺は席を立ちバックヤードに居たアキに声を掛け、さっきの席に連れて行く。


「なんすかー、楓さん」


そう言いながら着いて来たアキをソファーに座らせ口角を上げた。


「こいつすんげぇ縛られんの好きだから縛ったって」

「わー、アキくんめっちゃ好きそう」

「え、なんのプレイ?」


状況掴めないアキが会話に参加すると。あはは、と夏菜は声に出して笑う。

その場をアキに任せた俺は一旦その席を外れ、他の席に移動する。

刻々と過ぎていく時間。

ふと時間が気になってスマホを見ると、もうすぐで22時になろうとしていた。


不意に過った美咲の事が何故か気になり、

″お疲れ。気をつけて帰れよ″

そう美咲に言葉を送った。