「…翔?俺も同じだからな。何かあったらいつでも相談して来い。って言っても俺達にもう相談する年齢でもねぇか」

「……」

「で。お前たちはいつまで抱き合ってんの?俺の前で」


フッと鼻で笑った哲也さんの声。

その声で沙世さんの腕の力が少しづつ抜けていくのが分かる。

そして沙世さんが俺から離れて涙を拭った時、


「私もね、たまには若い男を抱きたくなるのよ」


そう言って口角を上げクスリと微笑んだ。


「言うねぇ…、お前は」

「さ、もう帰るわよ」


吹っ切ったように沙世さんが言うと、哲也さんの笑みで俺も頬を緩ませる。

後部座席に乗って、ボンヤリと外を眺める。

真っ暗な暗闇に車一台も走ってないこの静けさ。

その静けさを遮るかのように、「ねぇ、翔くん?」沙世さんの声が耳を掠めた。


「うん?」

「今日はありがと」

「こちらこそ」

「ごめんね、彼女居るのに遅くまで」

「寝てるから」

「そっか。ずっと一緒に住むつもりなの?」

「いや。母親が入院しててアイツ一人なの。父親いねぇから」

「そうなんだ」

「だからなんつーの?俺と同じでほっとけねぇの。退院したら帰らすよ」

「そっか」

「うん」

「…翔?ひとつ言っとくけどな、そこまでしてポイは辞めろよ。男として最低だぞ。って、まぁ俺はガキ身ごもってる沙世の事を放置しようとしたけどな」

「ちょっと!それ今言う?それこそ最低な男でしょ」

「お前もさっき引っ張り出してきただろうが」

「私はいいのよ。あなたに言われると何かムカつくわ」

「なんだよ、それ」

「…ほんと仲良いっすね、2人とも。優香が羨ましいわ」

「何言ってんのよ。翔くんもあたし達の息子だから」

「どーも。ありがと」


そう言って、俺は頬を緩ませた。