「私も百合香に逢いたいよ」

「……」

「凄く会いたい。会って話したい」

「……」


啜り泣く沙世さんの声が胸に痛く染みつく。

俺の身体を抱きしめ背中を摩る手が密かに震えているのが分かる。


「もう百合香が旅立ってから7年なの。もう、じゃなくてまだ7年なのかな?この7年の間、必死に頑張って来た翔くんの事、きっと百合香は認めてる」

「……」

「凄いねって、そう言ってるよ?もう自分を責めて苦しむの辞めたら?百合香はきっとそんな事望んでないよ?あなたの幸せを願ってるの」

「……」

「私はね、翔くんの事ずっと恨んでたの。憎くて憎くて、どうしようもない息子だってそう思ってた。でもね、今はね翔くんの事が好きよ。頑張ってるあなたが好き」

「……」

「もうこの辺で過去を振り返って後悔するの辞めなさい。百合香が余計に悲しむよ」

「……」

「翔くんはこれからもずっと私達の息子だよ。百合香に翔くんの事を″よろしく“って言われたからじゃない。私が翔くんを手放せないの。これからもずっと母親として傍でみてるから」


なんでだろうか。

今更になって涙が込み上げてくる。

泣きたいわけじゃない。

今更泣こうとしてこんな事を言ったんじゃない。

潤む瞳を乾かそうと俺は顔を上げ、夜空を見上げた。

真っ暗で星一つない空に軽く息を吐き出す。


寒さの所為か、吐く息が白い。

だけど沙世さんに抱きしめられている所為か、身体はそれほど寒くはなかった。


この7年、我武者羅に生きて来た。

あんな息子が居るから。

かわいそうなお母さんだったわね。

ほんと苦労して亡くなったわね。


木霊するように聞こえてくる周囲の声が今でも頭の中を駆け巡っていく。


だけどそんな俺でも沙世さんと哲也さんは見捨てなかった。


「…ごめん、ありがとう」


小さく吐き捨て、目を瞑りながら深呼吸する。

そんな俺に沙世さんは俺の背中を優しく撫でた。