「ごめん、ごめん」


しばくたって沙世さんが駆け足で俺たちの前まで来る。

目の前の車のロックを開けた時、不思議そうに俺たちを見つめた。


「どしたの?2人とも浮かない顔して」

「いや、沙世さんってマジ綺麗だなって思って」

「はぁ!?」


クスリと笑う俺に沙世さんの声が暗闇の中に響き渡る。

そして哲也さんの鼻で笑った声が耳を掠めた。


「て、言うか。たまに営業トーク出すのやめてくれる?」

「いや、マジで言ってんだけど」

「もぉ、アンタは嘘か本心かたまにわからない時があるわ」


もぅ、まったく。

そのため息混じりに付け加えられた言葉に頬を緩め沙世さんが荷物を後部座席へ置こうとした時、「あのさ、」俺は小さな声を絞り出した。

俺の畏まった小さな声に不審に思ったのか沙世さんと哲也さんが同時に俺に視線を向けた。


「なに?どしたの?」


沙世さんが戸惑いながら後部座席のドアを閉め、俺に面と向かう。

そして俺は小さく息を吐き捨てた。


「こうやって3人でいる事もあんまねぇし言っとくけど、俺は2人には感謝してるよ。偉そうな事言って迷惑かけて2人を避けてた時もあった」

「……」

「哲也さんと沙世さんに会うとお袋を思い出して避けてた。それとは逆に俺と会うと沙世さんたちがお袋を思い出し辛いんじゃねぇかって、」

「……」

「時々思う。この年齢になってお袋に会いたいって。願っても無理だけど会いたいって」

「……」

「最後にさ、お袋と話した言葉が、いちいちうっせぇよって言葉だった。今でも忘れられなくて自己嫌悪になる。ほんと、どうしようもねぇ奴でごめん」


2人に面と向かって言うのは勿論初めてで、多分ここで言わないと俺はこの先、言わないだろう。

哲也さんは俺から視線を外し遠くを見ていた。

沙世さんは目を潤ませ今にでも落ちそうな涙をグッと堪えて俺を見てーー…

その瞬間、沙世さんは数歩進んだかと思うと俺の身体をグッと抱きしめた。