「おい、大丈夫か?なーんかすげぇ喜んで話してきたぞ」

「あの親子、そんなネタしか話してこねぇしな。もぅ聞かなくていいっすよ」

「いや、話してくっから。なんか女の子、監禁してるとかなんとか」


声に出して笑う哲也さんは木箱の中から箸で肉を摘み鍋の中で軽く揺する。

その肉を俺の皿にスッと入れた。


「どーも。つか監禁じゃねぇから。ほんと女ってそう言う話好きっすよね」

「女っつーか、アイツらはお前の事が好きなだけだろ。翔の話しかしてこねぇわ。流石に嫉妬すんぞ」

「ははっ、嫉妬とかするんすか?」

「いや、この歳でもうないけど、若い頃は嫉妬深い男だったな」

「沙世さん、綺麗っすもんねー。こんな仕事してっと男寄って来るっしょ?20歳で夜の世界入ったっつってたけど嫌じゃなかったんすか?よく受け入れましたね」

「すげぇ嫌だったけどアイツ決めたら聞かねぇからな。まぁ俺も金なかったし」


情けない笑みを浮かべた哲也さんはビールを飲み干していく。


「あー…なんか分かるわ。沙世さん言う事聞かなさそうっての」

「いや、マジで聞かなかった。だからそれから俺、すげぇ嫉妬する男になってしまってな。それまでは男が嫉妬とかダセぇわってな感じだったけど」

「ははっ、まじっすか?でも17で優香産んでんすもんねぇー…凄いっすよね、哲也さんもですけど」

「え、俺?俺はなんもすごくねぇよ。当時アイツ高校生だったし、そん時俺、遊び感覚みたいなもんだったし。ってこれ言ったらすげぇ怒られっから言うなよ」

「言わないっすよ」


ははっ、と笑う俺に頭を過るのは美咲の事で、ちょっとだけ分かるような気がした。

沙世さんと哲也さんの5歳差が今の俺と美咲をリンクさせた。